囲碁と素数

Igo and prime number

第2回 その2

その1 (アルゴリズムの誕生)に続いて、簡単にLSIチップのまとめを行った後、LSIの歴史について書く。

LSIチップの種類と用途                                           メーカー

cpu Intel, AMD, ARM                                                Intel, AMD

特定用途用ロジック Qualcomm, NVIDIA                TSMC

メモリ DRAM (R. Dennard 1967),                            Samsung, SK, Micron, キオクシア

Flash (舛岡 富士雄 1986) 

マイコン、アナログ 車載用、家電用など              TI, Renesas, NXP

イメージセンサー スマートフォンなど                  Sony

LSIではないが、パワー半導体 重電            Infineon, Onsemi, 三菱電機, 東芝, ST

装置メーカー

露光装置、装置(エッチング、デポジション、塗布、検査)メーカー、マスク・メーカー

材料メーカー

シリコンウェハー、レジスト、反射防止膜、多層膜、洗浄、ガス

 

歴史

1. 1980年頃

1980年代までEDAツールの開発

シリコンバレー半導体新興企業の勃興

Cadence, Synopsys (Aart de Geus), Mentor (この頃起業して、現在の3大EDA会社につながる系譜)

 

日米貿易摩擦 日米半導体交渉

PC、 Windows 96 (1996)が実用化されて、PCの時代、普及がはじまる。やがて、Linux OSも地歩を築く。

液晶ディスプレイ TVの画面モニターも、PC他新しいLSIチップに基づく製品の普及とともに置き換わっていった。poly TFT(thin film transistor)を用いた液晶ディスプレイが、半導体LSI産業と類似した形で急速に発展した。技術的にも、ガラス基板の上にpoly TFTを液晶用の露光装置と半導体に類似した工程で作成し、それがカラー・フィルタを信号制御するという、デジタル・アナログ技術である。LSIの微細化とは逆に、大ガラス基板化・大(画素)画面化が進んだ。半導体LSI産業からの技術者の流入も多かった。

 

2. 2000年頃

日本半導体メーカー再編、撤退、縮小。韓国、台湾メーカーの台頭。

ファウンドリーとファブレス、業界のビジネス構造の再編。ファブレス(AppleQualcommNVIDIAなど)製造工場をもたないIP (Intellectual Property)、設計専門の会社とファウンドリーという工場を持ち、製造専業で設計済みのものを受託生産する会社(TSMC、UMC、Global Foundriesなど)の両方が台頭してきた。

 

波長限界 リソグラフィで用いるレーザー光はi線(波長 365nm)、KrFエキシマレーザー(波長 248nm)、ArF​エキシマレーザー(波長193nm)と素子の微細化が進むにつれて短波長化して来た。 しかし、その波長よりも転写・加工する素子の寸法の方が大幅に短くなり露光装置は限界を迎えていた。液浸immersionという手法によりレジスト(屈折率1.6)の表面を従来の空気(屈折率1.0)から水(屈折率1.44)に変えることにより、ウェハーへの光入射角を小さくできることから 焦点深度(パターンが形成できる焦点範囲)を大きくしてプロセス・ウィンドウを拡大し歩留まりを確保できる。また、露光装置のレンズNAを大口径化NA=1.35も実現した。

数値リソグラフィ 上記のような光学起因の困難はマスクとリソグラフィに数値計算技術を駆使した高度化を要求した。マスクについてはOPC(Optical Proximity Correction)処理の数値リソグラフィによる高度化、露光技術についても照明形状のシミュレーション最適化はじめ注力された。それでも微細化への対応が難しくなると従来1枚のマスクで処理していた工程を2枚(複数枚)のマスクを使い(MPT, multi patterningと呼ぶ)、工程数の増大と引き換えにして実現することも多くなった。

従来から各メーカーを悩ませてきたのが好不況の波、シリコンサイクルと投資のタイミングの難しさであった。それに加えて、このような技術的難しさがLSI製造全体の中でのマスクの設計・製造、露光装置、リソグラフィに関する部分の工程のコストを大きく増大させた。これらが業界構造の変化と投資負担増に耐えられない企業の続出につながった。電子データとしてのマスクを実体のマスク(レチクル)として製造する部分を境界にして、業界の構造が世界的に大きく変わったといえる。これは、次項の新技術が世界をつなげ、世界を変えて行くことと並行して起きている。

 

インターネット PCが普及して業務の中での主役になるにつれて、インターネットに接続されていることが前提になった。

通信 3G携帯までは、電話の代わりが主な役割あった。4G、スマートフォンになってからは、PCと同様にインターネットを含めた常時通信ネットワークにつなげるためのツールとして普及、グローバルなインフラになった。宇宙・静止衛星を利用した通信。クラウドの活用。IT(Information Technology)社会。

 

3. 2015年頃

半導体LSIの微細化、高集積化をさらに継続していくためには、ArF immersionの露光波長にまつわる限界は避けられなくなって来た。そこで、さらに短い波長のEUV 実用化へ向けた努力の最終段階を迎えた。露光装置が従来のものから、真空を必要とするx線領域のEUV露光装置に置き換わる。露光装置は従来のNikon(日本)、Canon(日本)、ASML(オランダ)の3社の体制から、EUV露光装置ではASML 1社のみが実用化に成功した。1台150億円という超高価な装置を投資できるLSIメーカーも数が限られる。

 

スーパーコンピュータ ニュースに登場する京、富岳をはじめとしたスーパーコンピュータは市販のPC、コンピュータとは異なり、専用のcpuに基づいて開発されたものである。この競争トレンドも技術的な指標になっている。

素子の立体化

素子の立体化は、メモリにおいては、集積度を上げるために素子の水平平面の中での微細化から、メモリの主にキャリア蓄積容量部での高さ方向に立体化したものである。これとは別に、素子FET部分の立体化はゲート長の縮小、微細化が平面の中では難しくなってきた時に、ゲート構造を高さ方向に立てて立体化、ゲート電極が立体的にFETをとり巻くようなFin(ひれ、羽根)構造にしたFinFETで実現した。両者ともに不可欠になった技術である。