囲碁と素数

Igo and prime number

第2回 その3

物理限界

さらなる微細化を進めていく先には、物理的限界が見えてくる。その第一は、素子のソース・ドレイン活性領域を構成している不純物イオン注入された不純物イオンの数が、素子の微細化の進展で減少するために生じる効果である。数が減ると不純物イオン数のゆらぎの効果で安定したソース・ドレインの電気的特性が得られなくなり、素子の欠陥の発生につながる。

これとは別の現象ではあるが、既にEUV露光に関しては、パターンの縮小にともないx線フォトン(光子)の数が減少、限られているため、さらには、レジスト中の有機物の数が限られゆらぐ効果で、転写されるパターンにラフネスという構造ゆらぎ―直線のパターンが直線から不規則にゆらぐなど―が現れて、欠陥数の増大が起きている。統計的な解析による欠陥制御の必要。

今後は、不純物イオン数のゆらぎをはじめとした限界も見すえて、全く新規の素子、材料の開発、ブレークスルーが必要になってくる。通信分野やパワー半導体においては既に実用化されているが、シリコン半導体から別の化合物半導体材料への変更もある。nano wireはじめとした提案はされているが、未だ、これからの技術開発である。

 

半導体LSIが将来の世界を左右するキーであることは間違いない。このことは、単に技術面、経済・投資の面を超えて、以降述べる社会構造、地政学上、さらには、政治、安全保障にまで及んでいる。

AnnaLee SaxenianのThe new Argonauts, Regional advantage in a global economy HARVARD UNIVERSITY PRESS, 2006​年。「最新・経済地理学」日経BP社2008年。

シリコンバレーの分散的産業システムがグローバルに広がっていることを示したこの本では、地域経済を外国からの居住者に解放したことから始まり、移住外国人技術者(図2-1)ハイテク移民が母国とのつながりの中で地域横断的なノウハウや技能の循環をつくり制度を改革してアントレプレナーシップも形成、蓄積していったと説く。シリコンバレーのシステムに学ぶ、国際的コミュニティをつくりだす、の各章に続き台湾、中国、インドと米国、先進国からこれら新興の国に生産が移っていった理由を追求している。日本では半導体各社の現場までもが半導体の”米作り農業論”のような幻想に踊り、技術の全体像を見ず、経営側は世界のオープンシステムの潮流に背を向けた1980, 1990年代から、韓国(Saxenianの本では、先進国側に分類されている)を経由、台湾へと技術・資本、技術者が渡って行った。

他方少し遅れて、MicrosoftGAFAと呼ばれるグローバルなITプラットフォーマーの巨大企業が誕生して国家の枠組み、従来の政治の世界を越えた影響も与えはじめている。それと並行して、中国への投資も進行した。一方で、中国は万里の長城と呼ばれる世界から隔離されたインターネット網を築き、民主主義・自由主義陣営の国々とは異なる政策、行動をとっている。

中国も今では最大のLSI消費地域である。SMICを筆頭にして半導体LSI会社ができている。しかし、技術的には、未だ、他の地域の後発にとどまっている。

中国をめぐり2019, 2020年から貿易摩擦、知的財産侵害問題が広がり、米中対立が政治、安全保障面において激化している。その一環として、中国にはEUV露光装置の供給が禁止され(2020年)、中国において最先端のLSIチップを設計・開発、製造することは規制されている。例えば、あるEDA会社では2019年中国にある部門を別会社として切り離し、email addressも分離するなど対応をとっている。

 

5G/6G 開発。これにも政治、安全保障が大きく絡んできている。

ファーウェイに対する制裁 2019年

 

現在、

2021年 世界

半導体装置産業 market                  7兆円(712億$)

半導体材料 market                         6兆円(553億$)

半導体産業market                         53兆円(500 x10億$)

EDA 設計支援                                1兆円

 

ソフトウェア market                                   50兆円以上(4073億$) 2013年 米ガートナー

ソフトウェア業界、IT業界など調査、統計の対象が難しいので目安として示す

価格

EDA設計ツール               1000万円, 1億円以上

Microsoft製品群               ~10万円

ウィルス対策                    ~1万円

フリーソフト(open source)             0円 (無料)

              R, python, Linux, jupyter notebook, Anaconda, GitHub, Docker, Ruby他多数

 

まとめ

半導体LSIというものの概説とそれが生れ、産業、および社会に及ぼした影響について述べた。特に、現代社会の最重要部品になった仕組みの根底を探った。

第二部では以上の半導体LSIの歴史の上に立ち、その中での”ソフトウェア側”の上位の階層にあると位置づけられる、「ソフトウェア」本体について言及する。これらもほぼ同時期に、ほぼ並行して発展して来たと言える。ソフトウェアの中でも確率、統計、AIに関するものを取り上げる。半導体LSIが生れ、新しい産業・社会が生れ、それが今後、さらに発展していく方向を探るのに重要な分野と考えるからである。

今後、微細化、高集積化をさらに継続していけるか、あるいは、物理限界を打ち破るブレークスルーが生れるか。いずれにしても、第二部に登場する分野と半導体LSIチップ、および、その後継の両輪が未来を担う重要なものになる。

 

添付として、視覚的にわかりやすいように経済産業省作成の図を転載する。

AnnaLee Saxenianの本から。ケイレツ、チェボル(巨大財閥)と対照的なハイテク移民出身が築いた台湾、中国、インドなどのハイテク。