囲碁と素数

Igo and prime number

第二部

 

ソフトウェアの中から注目されている3分野を抜き出した。これらの発展を支えた半導体技術との関係を示すために、左下の部分を加えた。第2回その1で述べた好循環の関係は、半導体設計を介して、これらソフトウェアとの間でもフィードバックのループを形成していると考えるからである。

これらの3分野は膨大過ぎる。左下一分野だけで私は35年を過ごして来た。今では一人のフリーランスとして3分野の本を読み、webで勉強し、フリーソフト, open sourceで楽しんでいる。私の趣味の囲碁AIのソフトもかなりの時間を占めている一つである。それぞれの分野の良書、web教材は多数あるので私の付加することはない。ただ、それぞれの分野の関係性を示してみたかった。例えば、スーパーコンピュータの活躍する分野として気象シミュレータがある。昔のIBMの大型計算機上で開発された時代から始まり、現在の日常生活において我々は恩恵を受けている。その数値計算の結果を天気予報として解釈する部分においてAI技術が最も活躍している。そういう特性、分担の関係がある。

この3分野はこれまで説明してきたLSI半導体技術の上で築かれたソフトウェアの中で現在、最も注目されているものである。

私は専門でないので、最近知ったがGoogleの提供するクラウド上のColaboratoryというサービスがある。ブラウザからpythonはじめとする環境が用意されていてGPUへのアクセスなど無料のサービスがある。ソフト自体はopen sourceなので無料で動く。このような環境は従来、個別の企業が自社のソフトや、ソフトのライセンス(7ページ)を買いIT環境を整えて投資して初めて用意される閉鎖環境だった。GAFAMicrosoftはじめが提供する無料の環境は、インターネット社会の今を象徴している。

AIは、電力のように全ての人に供給されるようになるべきであると、「人工知能のアーキテクトたち」(Martin Ford, ‘Architects of Intelligence’ 2018、オライリー・ジャパン2020年)の中で何人かが述べている(下表)。AIはLSI半導体技術から20年遅れて来て、2000年以降PCが本格的に使えるようになった後に育った若い世代とともに発展してきた。表の生年から、2018年のTuring賞を受賞したHinton達3人の中心人物を含め1950年代より前の生まれは全部で5人だけで60, 70年代が中心となっている。

 

 

ソフトウェア半導体LSI

ソフトウェアにしても、半導体LSIにしても、それが有用・有益であることは認めるとしても、使う側からしては、ブラックボックスとして使うことになるのが通常である。ソフトウェアはクリックして、あるいは、最小限の聞かれたことに答えを入力して使うものと、考えられている。ましてや、半導体LSIは機器の中にあって、はじめから中身の分からないブラックボックスとして使われている。このことをもう少し掘り下げて考えてみる。

ソフトウェアは、元々人間が機械に命令するための手段である。そうすると、今我々は、産業革命以来の、主にエネルギーを利用して機械に仕事をさせることに加えて、機械に手順を命令することができるようになった(下図参照)。そして、ソフトウェアが動作する実体としての半導体LSIチップを通してこれが可能になった、と言える。

 

 

情報インフラが世界中をつなぐ、現在の本質に近いところの根底にこれがある。

AIをはじめとしたソフトウェアによって、近い将来、我々の生活がさらに変わり始める。汎用AIの実現時期についても、前ページの専門家達の間でも2030年から2100年代の最後(2200年)までと人に依り大きな幅がある。

仕事をする機械が、人間の頭脳の代替になるような汎用AIの頭脳を持つことになるので、AIの専門家達といえども、AIソフトウェアの実用性評価、汎用AIの汎用性の定義と汎用性を獲得する学習方法の開発、他のソフトウェアとの関係、産業技術の中へのAIの普及速度、AI機械の安全性の確保と成熟性など、従来からの未来予測と同様の不確定さがある。

 

仮に、汎用AIが実現されてAIに指示された機械が人間に替わり社会を動かすようになった時代・社会生活を考える。そこから、逆に時を遡ると、現代(つまり、上図)においては、ソフトウェアは人間がプログラムする占有物である時代ということになる。その前は、人間がPCのような単体の機械を動かすためにプログラムしていた時代になる(DOSとかBASICのような時代)。それをさらに、遡るとPCのようなプログラムする装置すら存在しないが、電卓のような計算したり、単純命令を実行する装置の時代になる。それをさらに、遡ろうとすると、電卓の部品のようなICやLSIと呼ばれるものの時代になる。この時、プログラムは部品の中に内蔵されていた。これは1980頃に我々が実際に経験していた時代である。その時、半導体LSIチップを設計・製造する側では電卓よりも高度に電子化された手法が採用されていて、この小文のはじめで「アルゴリズムの誕生」と呼んだ方法で、LSIチップが設計され、その製造がおこなわれていた。

歴史を逆に遡ってくると、ここを起点にしてその後の50年、(100年)の発展が行われた。好循環の関係、フィードバックループによる高性能化が、その間たゆまなく実行されて、今日に至っているからである。