囲碁と素数

Igo and prime number

日本の半導体産業

かつて5割近くあった

(1980年代)世界の中での日本の半導体生産額が今では5%と1/10にまで落ち込んだことは、日本にとって大変な問題である。

原因として挙げられるのは、1)メモリ生産が中心で需要、価格変動の激しいメモリへの投資が負担になった 2) 1980年代以降の日米貿易摩擦円高の環境で日本国内での生産から海外へ技術移転して移っていった 3)新技術、新世代への投資が巨大になるにつれバブル崩壊後、デフレ下の日本では集中した投資が難しくなった。しかし、これらだけでは1/10にまで落ち込んだことの説明にはならないので、他にも大きな原因・理由があるように考える。

一つは、第二部のソフトウェアのところで述べた、デジタル化、IT化する世界の発展が半導体生産と一連の流れの中で理解できていなかった。メモリ生産が中心で「コメ作り農業論」のような、マユツバの工場量産現場での発想が中心にあり、将来の量産され世界マーケットに広がった半導体チップのデジタル化、IT化した使われの方への考慮、発想、注力、投資を怠った。

二つ目は、日本の半導体産業だけの問題とは言えない点。日本の産業、政策にかかわることである。それは、日本の半導体生産を需要して、メモリだけでない、デジタル化、IT化した新しい需要・マーケットを通信産業はじめとする新しい分野を創り出す努力に欠けた、あるいは失敗したことである。産業への新規参入者がなく、従来通りの既得権の企業・産業と産業政策が継続された。量産され世界マーケットに広がった半導体チップを新たに需要して、マーケットに新規参入し、メモリ以外の新しいcpuやロジック・チップの生産を促す新しい企業、技術の立ち上げがなかった。

グローバル化に結び付いて、知識・情報を求める何十億の人々の欲望、需要とそのためのプラットフォームになる新しいデジタル、IT、ソフトウェア産業の創出・到来という、大転換に対応する先見性を持たなかった。

・ゲーム産業が数少ないこの分野での日本の成功例かもしれないが、Apple, Google, Nvidia, ARMはじめとする米国、海外の企業が半導体チップを需要して、新しいチップ技術を開発・発注するのと、大きな差がある。

・大学、学会に発明家・ベンチャー的な革新研究や技術の大家、リーダーが現れなかった。

・NTT、東京電力はじめとする従来からの既得権、インフラ企業は保守的で、新規参入がなく、その周りの多くの企業群でも通信、インターネット、放送などをはじめとした新しい事業が育った例を寡聞にして私は見知らない。

・政府の政策も、デジタル化、IT化について世界に大きく遅れた。新型コロナ禍での保健所Faxによる大混乱問題で露呈された。

これら例に象徴される日本の産業界、政策全般からの需要、支援の無しが日本の半導体産業のジリ貧に大きく影響した。シェア1/10までの落ち込みは、日本の半導体生産が、1/2以下に撤退・縮小などで減り、世界の生産量が4倍には増えたことを意味する。

 大変な問題ではあるが、私個人がいくら憂いてもどうしようもないので、微力な私の出来ることとして、半導体チップの歴史を記録することをデジタル化、IT化する中でAIや量子コンピュータに触りながら行うつもりである。

なお、大変な問題の克服の可能性として、

  • 第二部のソフトウェアのところで述べた、デジタル化、IT化する世界が既に大きな現実のものとなった今、AIの技術そのものはアルゴリズムの技術と考えられるので、それの直接の開発にかかわらなかったとしてもそれの利用、応用、発展には本質的な問題はない、と考える。むしろ日本の現在持つモノの高度生産技術をAIと組み合わせて、より高度に信頼性あるシステムで安全なAI技術として発展させて行けばよい。
  • その中でAI技術や、デジタル化、IT化する世界の中で半導体チップのもつ本質的な役割に再度気付いて、新規参入技術・事業と結びつく発想が20年の遅れをとったとしてもまた始まることを期待したい。半導体チップの製造装置、材料だけに甘んじることはできない。後は、気付いて、やるだけの問題ではないか。既に実績と記録・記憶があり(そのための微力な役割を本文が担うことを願って)、技術者、高度生産技術と産業があれば、やるだけの問題である。
  • これまで1980年から2021年くらいの40年間の視点で書いてきたが、もちろんこの技術的な流れは、もっと長期の中でも考えられるベキである。AI技術が特化された適用範囲からさらに汎用化されていく将来を含めて、デジタル化、IT化する世界の流れはさらに速まり、強まる。その中で半導体チップのもつ本質的な役割を忘れずに、新規参入技術・事業と組み合わせる長い展望をもつことが大事である。今から40年先、その先の高度産業技術国家として築いてきた日本のイメージを、さらに発展、創出させる。

を挙げておきたい。

 

上記のことと無関係ではない、次のことも取り上げる必要がある。

半導体の製造が経済安保の問題、中国、ロシアをはじめとする専制国家対民主主義陣営の国家群との間の経済デカップリングの観点からも最重要視されるようになって来た。これは世界的な問題であるが、台湾、中国、韓国に隣接する日本にとっては、地政学的に言っても、深刻な問題である。特に、台湾に集中する世界的なファウンドリー、TSMCに集中する製造技術、先端LSIの製造能力が、世界全体の不安定要因と考えられている。この点については、回をあらためて取り上げてみたい。

 また、2022年には、経済デカップリングの進展か、日本においても先端のLSI半導体を復活させようとする動きが始動して、変化の兆しが見られる。

これについても、さらに具体的に書けることが近い将来やってくることを期待したい。