囲碁と素数

Igo and prime number

第17回 宇宙史年表

地球誕生後の歴史46億年は、宇宙誕生が139億年前に遡るという、自然科学の知見からすると、その宇宙の歴史全体の中でそれ程最近ではないということになる(1/3程度を占める)。もちろん、実感として感じられる訳ではないが。言い換えると、地球、あるいは、太陽系といってもよいが、はそれ程の新参者ではない。

ビッグバンの宇宙誕生後、超高密度の素粒子の世界から、軽い(原子番号の若い原子)が誕生して、やがて恒星の核融合活動にともない、重い原子を誕生させながら、恒星、銀河はじめの宇宙の大規模構造を複雑化させながら進化をとげてきた。

 

キップ・ソーン(ノーベル賞受賞は2017年、重力波の観測により)の次の本が面白い。

ブラックホールと時空の歪み」キップ・ソーン、白揚社 1997年

一般相対論を作ったアインシュタインだが、そのシュバルツシルト解から始まるブラックホールの研究の歴史では、アインシュタイン自身はなかなか受け入れないものがあった。量子論でも似ているが。天文学の深い話し。キップ・ソーンのSFにもつながるプロローグの話しが、「インターステラー」にもつながるものを彷彿とさせて面白い。

 

この間宇宙は膨張していた。

ここで、地球誕生後の歴史46億年は、宇宙の歴史139億年全体の中の33%程度というかなりの割合を占めていることに、話を戻す。

もちろん、時空間として考えると、宇宙は果てしなく膨張してその中での太陽系での時間の経過などは数にも入らないのではあるが。

別の考え方として、時間の進み、あるいは、時間という例えば年、億年、あるいは秒という単位を一様のものとして適用するのが、適切ではないのかもしれない。

 

前の4つに折りたたんだ歴史年表の仕組みを当てはめたとして、宇宙誕生からインフレーション、ビッグバンという宇宙の初期の段階では、もっといくつにも折りたたむベキというか、億年という時間単位ではふさわしくない、別の、素粒子、重力世界での時間単位で考えるべきものではないか。これをさらに突きつめて行くと、時間の単位から、単位が無くなり、ただの単位のない数だけの世界が最初の世界ではないのか、ということになる。

化石資料のある時代から、さらに過去に遡り、「冥王代生命学」にたどり着いた時、地球誕生初期の宇宙環境とより密接に結びついた原始地球環境のもとで生命誕生を考えなければならない。それを敷衍して考えれば、天文学は物理学と結びついて、宇宙全体を観測する精密科学に発展した。その精密科学で宇宙の過去をもっと遡る。宇宙全体を宇宙誕生の一点(時空間のどのような一点?かはよく分からないが)まで遡る。そこでは、時間の概念も億年から一点の時間まで、伸縮自在に変わる。その究極が単位のない数だけの世界。もちろん、自然数のような単純な数だけであるハズはなく、現代数学はその全体像を見ているであろう。

 

マックス・テグマークの「数学的な宇宙」という本も面白かった。

「数学的な宇宙」マックス・テグマーグ、講談社 2016年

―究極の実在の姿を求めて―という、副題。著者は、物理学、天文学者でCOBE、WMAP、プランクなどの観測結果の解析、数値で宇宙を見る専門家である。SDSS(スローン・デジタル・スカイサーベイ)などに従事。暗黒物質の密度の測定。

図4.6 同書102ページ

インフレーションの長所の一つは、世界の最も小さなスケールと最も大きなスケールとを関連づけることにある。実際、今日私たちの銀河が含まれる膨大な空間領域も、インフレーションの初期段階では原子よりはるかに小さく、そこでは量子効果が重要だった可能性がある。不確定性原理のために、インフレーション物質も、完全に均一な状態でいることは許されない。均一にしようとしても、量子効果のためにゆらゆらとゆれ始め、均一性は壊されてしまう。そのためインフレーション物質も、当初、密度が量子力学的にゆらいでいた。そしてその後、インフレーションによって引き延ばされ、私たちが観測できる全宇宙になったとき、量子力学によって刻み込まれたこの密度ゆらぎも、銀河やそれより大きな構造サイズまで引き延ばされた。さらに重力不安定性によってそれらのゆらぎが増幅され、最初0.002%程度だった量子力学起源のわずかな凹凸が私たちの夜空を今日飾っている銀河や銀河団や超銀河団に成長したのである(同書131ページ)。

 

宇宙全体を観測する科学が、さらに精密な科学になる頃には、素数の謎もだいぶ解かれているであろう。

フェルマーの最終定理サイモン・シン、青木 薫訳、新潮文庫 2000年

訳者あとがき 491ページから

宇宙の年表を、今度は時間ではなく、ここまでインフレーションして広大に広がった、その広がりとそれを可能にしたエネルギーの面でとらえると、以下のようなことが言える。

インフレーションの過程で、重力エネルギー(負)と引き換えに、真空のエネルギー(正)が無から取り出されたとすることで、エネルギーの差し引きはゼロになる。

全てのものは、アインシュタインの有名な静止質量エネルギー(mc2)を持つと同時に、重力のためにマイナスの重力エネルギー、「重力ポテンシャルエネルギー」を持っている。これら二つのエネルギーは、大きさが同じで符号が反対になっている。

重力エネルギー(負)というのは、宇宙全体に対していえば、宇宙が自分自身(その全ての物質)を入れているために、持つモノで、この考えを提唱したアラン・グースによれば

「宇宙は究極のただ飯(フリー・ランチ)のようなものだ」と。

「なぜビッグバンは起こったか」アラン・グース、早川書房 1999年

アラン・グースは1979年素粒子物理学大統一理論GUTをビッグバン初期にあてはめ、磁気モノポール(単極子)の生成を研究していた。磁気モノポールはヒッグス場の相転移直後にヒッグス場に起こっていたカオスの結果生じる。二度の相転移があり過冷によって相転移が先送りされる一次相転移であること。水の沸騰に似て、ヒッグス場の泡の矢の方向(地平線距離とヒッグス矢の整列)、カオスの程度と泡の分布を計算した。水蒸気の泡と違い、「偽りの真空」が起き、マイナスの圧力が斥力を及ぼす重力場を生み出す

上の書の241ページ

(一般相対論では圧力も重力場を生み出す)。

重力斥力のために宇宙は指数関数的に膨張する。一般相対論のド・ジッター解に相当する。「新しい相の泡が空間にランダムに出現する。それぞれの泡ははじめは小さいが、偽りの真空の崩壊の中にある泡はほぼ光速で成長し、ついに泡は合体して空間を満たす。それぞれの泡の内部には実質的に普通の真空があり、そこではヒッグス場は真空円上に近い点の値をとる。」(上の書の246ページ)

「偽りの真空」から普通の真空に変わったことによって、ヒッグス場のエネルギー密度が、へこんだソンブレロの中心をもつもの(アラン・グースが導入)から、通常のソンブレロ型のGUTでのヒッグス場のエネルギー密度になる。これらの図は、上の書を参照下さい。

平坦性問題も解ける(重力の効果はインフレーション期には逆転する)。地平線問題への解答。

上の書の257ページ

インフレーションの推進力は、「偽りの真空」と呼ばれる特異な物質の状態であった。これは、ヒッグス場に似た場であって、インフラトンinflaton場という。

(ピーター・ヒッグスは、今年2024年4月に94才で亡くなった。2013年ノーベル物理学賞。)

以上のような考え方が、現在のこの方面の物理学の主流のようである。

 

前と同じように、宇宙の年表を「折りたたむ」ということで言えば、時間を物質(エネルギー)に替えて

 10億x10億x10億x10億x10億x10億 グラム

という、広がり、大きさになる。

前の10億年という時間の場合と違い、今度は素粒子、エネルギーの世界の変遷、進化であるので、物理的な登場物や宇宙の広がりの大きさ、満たすエネルギーが問題になる。

また、逆に、時間を遡って宇宙の始まりのインフレーション開始に戻るという見方をすれば、無限小の一点に折りたたまれることになる。

いずれ、宇宙全体の観測がより精密になれば、しだいにこの年表もより正確なものになっていくだろう。

物理式に基づかない話をしていてもしょうがないので、最後に「おさまり」について考えて終わりにする。

おさまり:

逆に139億年の宇宙の歴史の中で、地球の歴史46億年が33%程度だとして、これがどの辺りに在るのがおさまりがいいかを考えてみたい。

地球の歴史46億年が、もし、宇宙誕生の後の近くにあったと仮定すると、それはあまりおさまりがいいとは考えられない。なぜならば、少なくとも動物のような生命の誕生までに地球の歴史に匹敵するような何十億年という時間が必要である。これは、「冥王代生命学」でも分かるようにDNA生物のようにこの世にある元素から生命が出来上がったという、わりと普遍的に考えられる可能性からすると、何十億年という時間には妥当性があるように思われる。そもそも、元素の種類も物理学的には宇宙で普遍的なものと考えられる。もし、地球生命の誕生が、宇宙誕生の後の近くにあったとすれば、素粒子世界の後にじきに地球ができ、生命も誕生した。しかも、宇宙全体は未だ、それほど広大に膨張、複雑な広がりを見せる程ではなかった、ということになる。これは、少なくとも、私にはおさまりが悪い。

 

もちろん、別の天文学の知見では、太陽系は第一世代の恒星ではなく―宇宙誕生の後に生まれた最初の世代の恒星たち―、その孫世代の恒星といわれている。このこともあるが、素粒子世界の複雑さと、宇宙全体の拡がり・構造の複雑さと生命の誕生の複雑さはバランスがとれているとすると、現在の科学が明らかにしている33%程度という頃合いはおさまりがいいのではないか。さらに、その種となった、宇宙の誕生前には数の世界があった?

 

こじつければ、本ブログ「囲碁素数」の囲碁は、宇宙(の複雑性)を模した人間の作ったゲーム。素数は、そのゲームの本質である無限の複雑性に関係した「単位のない数だけの世界」と上で述べたものを象徴する、といえる。おさまり、バランス、効率的な、複雑さというのは囲碁では大事なことである。